クレイグ・モド『ぼくらの時代の本』

株式会社VOYAGERからクレイグ・モド著/樋口武志・大原ケイ訳の新刊『ぼくらの時代の本』をご恵贈いただいた。

紙の本と電子の本のあるべき姿を問う
クレイグ・モド著『ぼくらの時代の本』ボイジャーより12月15日刊行 ボイジャー社プレスリリース

表紙には、紙の本と一緒に本棚に立てかけられたiPadが白インクで輝くイラストが描かれている。装丁は青い上質紙のフランス折りで、題字は型で押してある。コートは掛かっていない。大部数の書籍をやらないVOYAGERの本は豪華ではないけれど、紙や印刷技法までがデザインだと教えてくれる実例だ。考え抜かれたこの二色印刷装丁は、時間を伝えるための設計—デザインにもなっている。コートのない表紙は読んでいると折り皺が目立ってきて、きっと湿気でたわんでいく。埃も落ちなくなるに違いない。そうやって本棚で年をとったこの本は4C印刷のマゼンタとイエローの色抜けなんかとは違う姿で、iPadが生まれた2010年を感じさせてくれるはずだ。

『ぼくらの時代の本』と名付けられているこの本は、クレイグ・モドによる「本をハックしよう」という勧誘の書だ。普段なら反発したくなるアジテーションだが、モドと、モドとともに「本」を作ってきた人たち、そして本書のスタッフには、乱暴でエレガントな「ハック」という言葉がよく似合う。

モドはぐだぐだと固有名詞の意味を説明しない。そのかわり検索クエリとして使えるようにカタカナの後ろに英文が付記してある。ググればいいというサインだ。モドは「表紙がfaviconになる」と書く。AmazonやKindleでの表紙の扱いを知っている「ぼくら」ならすぐに意味がわかる。モドは「git」の意味も使い方を説明しない。当然。もう使ったことがあるから。モドはSEOに悩む。モドは印刷所に入り込み、Kickstartarでカネを集める。

そうやって彼が作るのは紛れもない「本」だ。美しい装丁の紙の本であることもあれば、iPhoneやiPadの上で動く小さなプログラムだったりすることも、電子雑誌だったりすることもある。たった一チームのために本を作る話も載っている。Flipboadrの開発プロジェクトをまとめた3キログラムの紙の塊を作る第六章、表紙に初めてのgit commitのログ。裏表紙には最後のコミットコメントが押された本をプロジェクトメンバーが開くところなんて、読んでいて思わず涙ぐんでしまう。

7編のエッセイは、既に失敗の烙印が押された試み(AppleのNews Standなど)にも好意的だったりするし、具体的に書かれた商標が時代を感じさせる部分もあるが、本書の魅力はいささかも減じない。モドは本書で繰り返し「本をハックしよう」と誘う。その呼びかけに応える力を「ぼくら」がすでに持っていることを、本書で教えてくれているのだ。

代官山のTSUTAYAで出版記念イベントが予定されているとのこと。興味のある方、そして実物の『ぼくらの時代の本』をご覧になりたいならばぜひどうぞ。

SmartNewsデザインアドバイザーのクレイグ・モド著『ぼくらの時代の本』出版記念イベント

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