オービタル・クラウド 文庫

発売から2年と2ヶ月を経て、ついに『オービタル・クラウド』の文庫が発売されることになりました。若干、通常のスケジュールよりも短いタイミングでの文庫化ではありますが、舞台となる2020年までの期間や、昨年の2つの受賞を考えるとよいタイミングでの文庫化だと思います。単行本で470ページあった物語は、上下巻に分かれます。上巻には用語解説が、そして下巻には大森望さんが解説を書いてくださいました。

『オービタル・クラウド』上巻『オービタル・クラウド』下巻 ハヤカワオンライン

新たに加わった下巻の表紙は、サマンサ・クリストフォレッティ飛行士によってISSから撮影されたイタリア半島。タイムラスプの一コマです。映像も美しいので是非ご覧ください。

Watch: Stunning timelapse of Earth at night from International Space Station

『オービタル・クラウド』は私の長編2作目なのですが、幸運なことに第35回日本SF大賞と
『SFが読みたい! 2015』ベストSF 2014での一位、そして第46回星雲賞の日本長編部門を受賞しました。すでに幾つかの国で翻訳も進められてもいます。本作で描いた宇宙への挑戦はそれらの国でどのように受け入れられることでしょう。今から楽しみです。

改稿にあたって、『オービタル・クラウド』を書いていた2013年の時点では予想していなかったことをどのように反映させるのかに悩みました。軌道上のホテル(しかも作中で描いたものと同じ膨張式)や、HTVでのテザー実証試験、そしてアメリカとイランの国交回復など、現実が追いついてきている部分は改稿で反映させている部分もありますが、ISILと、長引くシリア内戦、ヨーロッパを分断の危機に陥れている難民問題については改稿の範囲で挟むことを断念しました。これらの問題については、別の小説で描くときに自らに問いかけていきます。

まずは手に取りやすい形になった『オービタル・クラウド』を、ぜひお楽しみください。

「従卒トム」

河出書房新社の書き下ろし日本SFコレクション『NOVA+ 屍者たちの帝国』に「従卒トム」という70枚の短篇を寄稿した。

作品のあらすじはこんな感じだ。

南北戦争で自由人となったトムは南北戦争で大量に生産された白人屍兵の管理者として太平洋を渡り、薩摩軍に雇われて江戸城総攻撃を控えた軍艦にいた。彼の率いる部隊には、南軍騎兵服に身を包んだかつての持ち主、ネイサン・ジョーンズの姿があった……。

シェアードワールド短篇の執筆を依頼された時、プロローグとの設定が同じであればいいのですよと言われてはいたが、私は円城塔さんが書き継いだ『屍者の帝国』と干渉させないことにして、黒人奴隷と白人の屍者の話にすることを決めた。

初めに思いついたのは『ハックルベリー・フィンの冒険』を下敷きにすることだったが、これはパオロ・バチガルピの傑作短篇「カロリーマン」と丸かぶりしてしまうことがわかり、没。ベタではあるが『トム爺やの小屋』を何らかの形で絡め、筋立てに他作を下敷きにしないようにしよう、と決めた(よもや日本語で読める「アンクルトムの小屋」が絶版になっているとは思わなかったが……)。

舞台は日本。江戸城総攻撃の前日ならば『屍者の帝国』の10年前になる。これなら『屍者の帝国』とコンフリクトしにくいし、ヴィクター・フランケンシュタインの被造物と絡むことも少なかろう……そんな思惑で7割ほど描き進んだところで設定を付き合わせるために、検索のできるKindle版を購入したのだが、文庫版に付された円城塔さんのあとがきに肝を冷やした。

その点、南北戦争や西南戦争の時代をずらすことができればなにかとやりやすく……

伊藤計劃さんは幕末を舞台として『屍者の帝国』を書くつもりで準備を進めていたのだ。確かに侍と屍兵の戦いは絵になる。戊辰戦争に田原坂、白虎隊に新選組。いくらでも魅力的な題材は転がっている。

数日悩んだが、結局そのまま仕上げることにした。どうせ私と伊藤さんの資質は大きく異なるのだし、私は私の話しか書けない。そうやって生まれたのが「従卒トム」だ。

もちろんできあがりには満足している。場を提供してくれた大森望さん、編集の伊藤靖さん、そして困難な書き継ぎを見事な作品に仕上げてくれた円城塔さんと、貴重なプロローグを残してくれた伊藤計劃さんへ感謝の意を伝えたい。

中国星雲賞へ出席

2016年9月、北京で行われる第7回 幻星雲賞にご招待いただきました。もちろん出席します。パネルが今日告示されました。SFセミナーで伺った中国SFの作家たちと会えるのが楽しみです。

全球华语科幻星云奖嘉年华暨颁奖盛典议程的通告

この記事は中国最大のメディア新華社からの配信ですが、SFセミナーで聞いたところによると、どうやら星雲賞自体のスポンサーでもあるとのこと。ヒューゴーに中国人作家が選ばれるという世紀の出来事も後押ししているのでしょう。

私の知る北京は、オリンピック前の喧騒に満ち溢れた活気ある街というものです。地下鉄とバスを乗り継いで、当時は東三環沿いにあった清華大学美術学院へ通勤していた頃のことを思い出します。きっと大きく変わったのだろうなあ。

トーク&サイン会×ビブリオバトルin紀伊國屋

ちょっと面白い企画に出演します。

【新宿南店】 2015年5月9日(土)14:00~《特別企画》藤井太洋トーク&サイン会×ビブリオバトルin紀伊國屋

昨年4月に行われた紀伊國屋書店新宿南口店のビブリオバトルで、ゆうきさんが『オービタル・クラウド』を題材にチャンプをとりました。このツイートとプレゼンテーションは見ていたのですけど、嬉しかったのですよね。

ゆうきさんをはじめ、たくさんの方々に楽しんでもらってお勧め頂いたことで『オービタル・クラウド』は『SFが読みたい!』のベストSF 2014にもなり、SF大賞にもエントリーして頂き、大賞までも頂くことができました。

幸運な出会いがもてた作品だったのだなあと感じていたところへ、紀伊國屋書店から早川書房を通して、ゆうきさんとのトークイベントに出演頂けないかとの打診があった次第です。『オービタル・クラウド』については今まで幾度か対談やインタビューなどを受けていますが、今回はある意味での読者代表。容赦のない突っ込みもあるかもしれません。ひと味違ったイベントになるのではないかと期待しているところです。

入場無料。交通の便もよい場所ですので、お時間がある方は是非ともお越しください。

『ビッグデータ・コネクト』予約開始!

単著としては四冊目になる長篇小説『ビッグデータ・コネクト』(4月10日発売)がついに予約開始となりました。刊行するのは文藝春秋社、文春文庫から文庫オリジナルでの出版となります。

文春文庫:『ビッグデータ・コネクト』藤井太洋 (790円+税)

京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の捜査は進歩的市長の主導するプロジェクトの闇へと……。行政サービスの民間委託計画の影にナニが? ITを知り尽くした著者が描くビッグデータの危機。新時代の警察小説。
文庫本:あらすじより

ほんの少し将来に設定してはいますが、ご覧の通り、警察小説です。デビュー以来(とはいってもそれ以前に書いた小説はGene Mapperしかないのですが)、短篇も含めてSF作品ばかり刊行してきた私にとって明確に異なるジャンルの小説を書くことは大きな挑戦でした。昨年(2014年)の二月、『オービタル・クラウド』を書き終えてからずっと書き続けていたのですが、担当して頂いた永嶋俊一郎さんの的確な指摘をいただきながら、楽しんでいただける物語に仕上げることができました。

以下はその永嶋さんのTweetですが、ありきたりのエンジニアあるあるにならぬよう、いろんなものを振り絞って書いた「開発合宿所」のパートが前半の山場となります。

幸いなことに電子書籍版も同日刊行が決まっていまして、AmazonのKindleストア、楽天のKobo、そしてAppleのiBook Storeでそれぞれ予約が始まっています。

ぜひ書店で手にとって、または電子書籍でお楽しみください。

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