考えながら書く人のためのScrivener入門


Scrivenerというアプリケーションで小説を書いていることは、幾度か対談やインタビュー、そしてセミナーなどでも紹介してきた。このブログにも二つほどエントリーを立てているが、すでに使い始めた頃のことを忘れてしまった私のブログ記事では、はじめて体験版を起動した時の不安を払拭できるわけもない。そんなわけで、この4年の間、いくつかエントリーを立てては消していた。どうすればこのツールが必要な人の手に渡るだろう。そんな悩みが解消する日がやってきた。Scrivenerを網羅的に紹介する書籍がBNN新社から発売されたからだ。

考えながら書く人のためのScrivener入門

「考えながら書く人のためのScrivener入門」は、ふんだんに画面イメージを用いた導入ガイドブックだ。インストールから初めてのプロジェクト作成、そしてコンパイルまで過不足なく説明してくれる。大型のタブレットで電子書籍を読む習慣があるならばフルカラーの電子書籍版を購入するのいいかもしれない。

私も何度か書いたことがあるが、サードパーティのガイドブックは開発元の発行するマニュアルよりも読みやすくなる。そうでなければ発行する意味もないのだが、製品のマニュアルには執筆に大きな制限があるからだ。最終的な機能がどのように実装されるかわからない開発中のソフトウェアを使う(時にはバグ報告が業務の大半を占めてしまう)ため、そして、ユーザーの幅を、ソフトウェアの仕様と販売の方針に従って最大限に広くとらなければならないためだ。

もしもScrivenerを買って、あるいは体験版をダウンロードして面白そうだと思ったならば、ぜひともBNN新社のガイドブックを手に取っていただきたい。Scrivenerは今までにもブログなどで紹介されてはいるが、日本語で書かれた初めての本だということもあるがストーリーがとてもシンプルだ。囲み記事で紹介される細かな機能などは普通に使っていては気づかないものが多く取り上げられている。巻頭に私のインタビューも掲載されていてKindleの無料お試し部分で確認することもできるが、巻末には、あとがきにかえて「考えながら書く人のためのScrivener入門」をどのようにScrivenerで書いたのかというコラムが掲載されている。こちらも必読だ。

ちなみにScrivenerには、PDFながら800ページにもわたるたいへん立派なユーザーガイドが用意されている。検索して項目を読むオンラインリファレンスをPDFに固めたものではなく、かつてPCやMac用のソフトウェアを買ったときに付属していた分厚い紙のマニュアルの系譜に連なるものだ。先頭から順を追って読んでいけば、確実に使えるようになる「本」だ。

4年前にはじめてそのPDFを読んだ時に、紙のパッケージで店頭売りする歴史を持たないScrivenerの開発陣がクラシックなマニュアルを作ったことへ、懐かしさとともに尊敬の念を抱いた。現在、オンラインでダウンロード販売するソフトウェアの多くが「本」のマニュアルではなく、ビデオチュートリアルでソフトウェアの使い方を説明している。Scrivenerも例外ではない。Scrivener Tutorial Videosには、基本的な考え方を紹介するビデオから、見落としがちな機能まで、多くのビデオチュートリアルが掲載されている。それでも彼らは800ページのマニュアルを書いた。

意外かもしれないが、「本」として読めるマニュアルはビデオチュートリアルよりもソフトウェア開発に負担をかける。動く画面を見せるビデオチュートリアルはソフトウェアが完成しなければ作れないのだが、逆に言えば開発中に制作するリソースを割かなくていいということでもある。ビデオチュートリアルはソフトが完成し、配布が始まってから徐々に増やしていけばいいのだ。そして画面が自動的に遷移していく映像では、それぞれの状態から派生する分岐を全て説明できないし、する必要がない。最後まで見せる工夫もそれほど要らない。画面に映し出される成果物がそのソフトウェアと機能の有効性をなによりも雄弁に物語るからだ。

だが紙と電子を問わず、インストール時に提供される「本」のマニュアルではそうはいかない。まず、読み続けられる偏らないストーリーが必要になる。特に小説や戯曲、脚本のようなフィクションから、論文、ジャーナル、そしてブログまで、およそまとまった文章を書くすべての人を対象としたScrivenerの顧客は幅広い。新規書類を立ち上げる時に選択するテンプレートで機能の意味するところも変わる。そして汎用のアプリケーションの多くがそうであるように、ユーザーは99%の機能を必要としない。下手に構成された「本」のマニュアルでは、ユーザーは自分と関係のない記述を延々と読まされる羽目になる。数万円のソフトウェアが飛ぶように売れた時代ならばスタッフの何名かが専門のライターとなって、開発の進捗に合わせて執筆していく方法もとれるだろうが、「高い」と言われるScrivenerでも価格はほんの5千円ほどだ。開発チームにそんな余力があるはずもない。Scrivenerのチームがそんな負担になるマニュアルを今でも作っているのは文書を書くためのソフトウェアの矜持からだろう。もしも英語が苦にならないならば、ぜひ目を通していただきたい。きっと発見があるはずだ。

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