「従卒トム」


河出書房新社の書き下ろし日本SFコレクション『NOVA+ 屍者たちの帝国』に「従卒トム」という70枚の短篇を寄稿した。

作品のあらすじはこんな感じだ。

南北戦争で自由人となったトムは南北戦争で大量に生産された白人屍兵の管理者として太平洋を渡り、薩摩軍に雇われて江戸城総攻撃を控えた軍艦にいた。彼の率いる部隊には、南軍騎兵服に身を包んだかつての持ち主、ネイサン・ジョーンズの姿があった……。

シェアードワールド短篇の執筆を依頼された時、プロローグとの設定が同じであればいいのですよと言われてはいたが、私は円城塔さんが書き継いだ『屍者の帝国』と干渉させないことにして、黒人奴隷と白人の屍者の話にすることを決めた。

初めに思いついたのは『ハックルベリー・フィンの冒険』を下敷きにすることだったが、これはパオロ・バチガルピの傑作短篇「カロリーマン」と丸かぶりしてしまうことがわかり、没。ベタではあるが『トム爺やの小屋』を何らかの形で絡め、筋立てに他作を下敷きにしないようにしよう、と決めた(よもや日本語で読める「アンクルトムの小屋」が絶版になっているとは思わなかったが……)。

舞台は日本。江戸城総攻撃の前日ならば『屍者の帝国』の10年前になる。これなら『屍者の帝国』とコンフリクトしにくいし、ヴィクター・フランケンシュタインの被造物と絡むことも少なかろう……そんな思惑で7割ほど描き進んだところで設定を付き合わせるために、検索のできるKindle版を購入したのだが、文庫版に付された円城塔さんのあとがきに肝を冷やした。

その点、南北戦争や西南戦争の時代をずらすことができればなにかとやりやすく……

伊藤計劃さんは幕末を舞台として『屍者の帝国』を書くつもりで準備を進めていたのだ。確かに侍と屍兵の戦いは絵になる。戊辰戦争に田原坂、白虎隊に新選組。いくらでも魅力的な題材は転がっている。

数日悩んだが、結局そのまま仕上げることにした。どうせ私と伊藤さんの資質は大きく異なるのだし、私は私の話しか書けない。そうやって生まれたのが「従卒トム」だ。

もちろんできあがりには満足している。場を提供してくれた大森望さん、編集の伊藤靖さん、そして困難な書き継ぎを見事な作品に仕上げてくれた円城塔さんと、貴重なプロローグを残してくれた伊藤計劃さんへ感謝の意を伝えたい。

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